2004.03.03

お客さんが全員降り終わると、整備さんがコックピットに上がってきた。
一番右側のタイヤに亀裂があるので、これからタイヤ交換をする、とのことだった。
次便は私の担当だったので、私も外部点検をしながらタイヤを見てみることにした。

それは長さ1cm程の小さな傷だった。
これが原因でタイヤを交換するのだが、作業時間に約30分かかる、と整備さんから報告を受けた。
前便が若干到着が遅れていたために、少しでも早く出発したかっただけに、これにはショックだった。
キャプテンはタバコを吸いにPBBを通ってターミナルに行ったものの、
待っているお客さんを前にタバコを吸うことが恐縮だから、と、吸わずに帰ってきた。
私は、客室で新聞を読み、くつろいでいた。

それにしても時間がかかるなぁ〜・・・・・。

およそ25分ほどして整備さんが上がってきた。
彼の顔を見てギョッとした。
プールから上がってきたばかり、というぐらい、顔全体がズブ濡れだったのだ。
汗?

雨は降っていない。
外気温も結構低い。
少々走ってもそんなに汗はかかないはずだ。
私は自宅の屋外でウエイトトレーニングをしている。
今日の気温だと、重いバーベルをかついでヘロヘロになるまでスクワットをしたとしても、
吹き出るほど汗をかくことはない。
顔がズブ濡れになる、ってどういうこと?
顔があれだけ汗まみれ、ということは、きっと作業服の下はべチャべチャに濡れているに違いない。
タイヤ交換には、飛行機をジャッキアップするが、急いでいた為か、
相当の力を使い続けたのだと思う。
客室で新聞を読んでいたのが、とても申し訳なく感じられた。
でも、手伝うこともできない。

どうやらタイヤ交換の作業が終わったようだった。

飛行機は40分遅れの出発となった。
お客さん、全員が乗り終えて、飛行機のドアが閉まると、
客室乗務員(CA)からインターフォンで連絡が入った。
搭乗完了の報告プラス、1名、ご立腹の方がいらっしゃる、との連絡だった。
そりゃ怒るわな。
きっと、黙っていてもみんな怒っているに違いない。
あとで丁寧にお侘びのアナウンスを入れよう。

車は止まった状態から加速していくとき、時速0km、10km、20km、30km、40km、と少ずつ加速していく。
飛行機は着陸の接地時、静止していたタイヤは一気に回転させられる。
時速0kmから200kmまで一瞬で回らなくてはならない。
滑走路の路面は水はけをよくするために、進行方向に対して垂直に1cmほどの溝が掘ってある。
それはまるで目の荒いヤスリに重い回転体を衝突させて無理やり回すようなものだ。
飛行機のタイヤが接地するときに白い煙が上がるのは、この摩擦でゴムが溶けるからだ。
また、横風を受けて着陸する際、飛行機を傾けて着陸すると、一番外側のタイヤが最初に接地する。
それは一瞬だが、1つのタイヤが飛行機全体の重量を支えることになり、
しかもそのタイヤがヤスリにこすり付けられて一気に時速200kmまでスピンアップさせられるのだ。
きっと、小さな小さな亀裂であっても、安全のためには念には念を入れて交換するのだろう。

飛行機が遅れて待つのは、お客さんだけではない。
空港まで迎えにきている人。
ビジネスマンで、これから商談や会議があるとすれば、先方をも待たせることになる。
お客さんの数の倍以上の人達に迷惑をかけているかもしれない。
彼らに対しても我々、乗務員一同、心からお侘びの気持ちを伝えたい。

整備さんが汗だくで頑張ってくれたこと、タイヤのお話、お客さんとお客さんを待つ人達への謝罪の気持ち、
全てをアナウンスで伝えたいが、長くなりすぎると迷惑だ。

上空でベルトサインを消して、CAをインターフォンで呼んだ。
「どうですか? みなさん怒ってません? さきほどご立腹だった方はどうですか?」
ほとんどの方が起きてらっしゃいます。 特にクレームは上がってません。
 先ほどのお客様は、今、お休みです。
」(CA)
「そうですか、じゃあ、その方が起きたら連絡ください。」

数分してCAから連絡があった。
先ほどのお客様、お目覚めになりました。 皆様お目覚めです♪」(CA)

言いたいことはいっぱいあったけど、結局、ほとんど言えずじまいだった。
簡潔にまとめようと思うと難しい。

みなさんに気持ちが伝わったかなぁ〜?



2004.03.26

大阪から大館能代へ 29,000ft で向かった。
大館へのアプローチは秋田上空での高度制限があるために高くなりがちだ。
通常 11,000feet〜12,000feet 以上で秋田を通過するよう指示されるのだが、
これでも高目でその後、高度処理をするのにきついことが多々ある。

「Cross Akita at or above FL170.」(管制官)
(秋田を 17,000feet 以上で通過してください)

たっかいなぁ〜〜〜!
どうやって高度処理するんだよっ!
と思いつつ、管制官の指示には従わなくてはならないので、素直に答えた。

「Roger. Cross Akita at or above FL170.」

まさにそう私がマイクのスイッチを押して送信している最中に、キャプテンが大きな声で言った。

たっけぇ〜!」(キャプテン)

マイクに向かってしゃべりながら、私はちょっと笑ってしまったが、
きっと管制官には私の笑った感じの話し方と
キャプテンの 「たっけぇ〜!」 というバックノイズが聞こえていたに違いない。
私はマイクの送信スイッチから手を離してからキャプテンに言った。

「もうっ! ダメじゃないですか、あんな大きな声で言ったら。
 絶対、聞こえてますよっ!」
えぇ〜、だって、聞こえるように言ったんだもん♪」(キャプテン)

マジっすかぁ〜?!?!
分かっててそういうことします?普通。

しばら〜くして管制官から再び指示があった。
「Cross Akita at or above FL170, or cross 15 miles south of Akita 13,000.」(管制官)
(秋田を 17,000feet 以上で通過するか、秋田の手前15マイルを 13,000feet で通過して下さい)

初めに秋田をFL170と指示されたので、ゆっくり高度を下げていた。
そのため、秋田の手前15マイルまでに 13,000feet まで下げることは不可能だった。
それにしても、わざわざ指示し直してくれるなんて、きっとキャプテンの声が丸聞こえで、
管制官も、なんとかしてあげよう、と思ってくれたに違いない。

「キャプテン、どうします?」
うぅ〜ん・・・・、ちょっと難しいかなぁ〜。 無理だろうなぁ〜。」(キャプテン)
「そうですね。 じゃあ、言っときます。」

「We will cross Akita at or above FL170, but thanks anyway♪」

と私は答えた。
すると、

日本語で申し上げます。
 あなたの飛行機の前方10マイルを 15,000feet で同方向に進んでいるYS−11がいます。
 秋田の手前15マイルを 13,000feet で通過できるのであれば降下してください。
」(管制官)

ゲェ〜〜〜!
やっぱキャプテンの 「たっけぇ〜!」 というバックノイズにメッチャ気を使ってくれてるんじゃん?!
悪いことしたなぁ〜。

「いえ、若干高めなので秋田を 17,000feet で通過します。 ありがとうございます。」

管制官の方、気を使って下さって、どうもありがとうございました♪

オートパイロットを切ってスポイラーをフルに立てて、なんとか高度処理し、
何事もなかったかのように大館能代に着陸した。
(オートパイロットを切った場合と切らない場合とでは、
 スポイラーの立つ度合いが切った場合、2倍になる)