2005.04.01

スタンバイ勤務。
勤務時間内に「英語検査」なる時間が20分、設定されていた。

うちの会社はずっと国内線を飛んできたが、そろそろ国際線も飛ぶことになるようで、
それにともない国際線乗務に必要な語学要件(資格)を全てのパイロットが取得することになった。
世界のエアライン各会社が国際的な取り決めで行っている資格で、避けては通れない。
この本番の資格取得の前の予行演習的な電話による英語能力の確認が行われたわけだ。

業務連絡の中に、この英語検査で聞かれる内容等について書かれている文書はあったが、
どうせそのまま同じことを聞くわけないし、その場で答えればいっか、と思って油断していた。

指定された電話番号に電話をかけると、女性が出た。
しかも、英語圏の人であることは確かだ。
ひとまず安心。
男性の声より女性の声の方が、電話では聞きやすい。
でも、ちょっと聞きづらい気がした・・・・。
気のせいか?

生年月日、趣味、など、ありきたりの質問から始まった。

今日の朝食は何ですか?
 えぇーーっと・・・・・・・、思い出せない。
 何、食ったっけ・・・・・・・?
 米、食ったな・・・・・、魚、食ったな・・・・・・、
 パン食べたっけ・・・・・? イヤ、食べてないぞ。
 あとは・・・・・、そうそうコーヒーと・・・・・。
 ごめん、忘れた。
 ........ rice ........ fish? ........... bread? no, no ...... coffee?
 Sorry, I don't remember.
出勤の30分前に食べたものが思い出せないのだから恥ずかしい。
とってもたどたどしい英会話だったに違いない。

今から5年後に、あなたは何をしていると思いますか?
 仕事してるっしょ? 仕事以外に何してるかって? 知らんがな!
 Apart from flying? ........... don't know. Playing with my son, maybe?

どうして ANA を選んだんですか?
 うちは ANA じゃなくて ANK ですけど。
失礼しました。 では、どうして ANK を選んだんですか?
 イヤ〜、JAL も JAS も ANA も受けて落ちましたぁ〜♪

どうしてパイロットという職業を選んだのですか?
 これって、英語のレベルを調べるためのもので、正直に答えなくてもいいんですよね?

どこで飛行訓練をしましたか?
 オーストラリアです。
どこの都市ですか? シドニー? メルボルン?
 多分あなたは知らないと思いますけど、タムワースです。
あぁ、タムワースですか?
 え゛ぇ゛ーーーーっ!?!?! タムワース、知ってるんですか?
 あなたはオーストラリア人ですか?
そうです。
って、オレが質問してどーすんだよっ!!
どーりで、ちょっとなまってて、時々聞き取れないところがあるわけだ。

もし、もう一つ語学を学ぼうと思ったら、どこの国の言葉を習いたいですか?
 私は言語が嫌いだし、アメリカ留学時代に英語を習得するのがつらかったので、
 ニ度と同じ経験はしたくありませんから、他の言語は学びません。

シドニーと日本とで、文化や生活様式にどのような違いがありますか?
 そんなこと知るかい!
 いっぱいあり過ぎるし、その質問、日本語で聞かれても困るぞ。
 That is a very difficult question ................
私は固まってしまった。

シドニーは人間がフレンドリー、とか、何かあるでしょ?
 う〜ん・・・・、関西人もメッチャ、フレンドリーだけどなぁ〜。
 季節が逆? それ以外、思いつかない・・・・・・。

英語がある程度、話せればいいわけでしょ?
もう、止めようよ、そんな難しい質問。
答えられないと落ち込むから。

10分程度で電話インタビューは終わった。
電話を切ってから、しまった!と思った。
20分の時間が用意されてたんだから、逆に相手のことを根掘り葉掘り聞き出せば良かったなぁ〜。

業連の質問例を読まなかったせいか、ほとんどまともな受け答えができなかった気がする。
果たして判定はいかに・・・・・。



2005.04.03

昨晩は初めて中部空港のセントレア・ホテルに泊まった。
新しいだけあって、かなりきれいだった。
朝食はどんな感じかなぁ〜、と楽しみにしていると、“バイキング”っ!!!!!!!
嬉すぃ〜〜〜〜♪
でも、杉花粉のせいで外出がほとんどできず、この時期はジョギングを控えているので、
食い過ぎは禁物だ。
いつもならバイキングだと腹20分目ぐらい食べるが、
今日は意志が強く、腹18分目程度で我慢できたので立派なものだ。

この時期、雨が降っている時か、雨が降った直後の地面が濡れているときにしか走りには行けない。
今日は幸い那覇ステイ。
北海道と沖縄は杉花粉がほとんど飛んでいないので、屋外で走ることができる。

食事を終え、ディスパッチへ行った。
飛行計画は、中部 → 新潟 → 千歳 まで来ていた。
天気図を見るかぎり、北行きは上昇、巡航の気流は良さそうだったし、
空港の天気も離着陸には問題なさそうだった。
気になるのは千歳から新潟へ戻った後の、新潟 → 那覇 だ。
ディスパッチのカウンターに置かれている飛行計画は中部から千歳までなのに、
私が知りたいのは昨日まで雨だった那覇の天気と、鹿児島−那覇間の揺れない高度。
昨日もそうだたが、この時期、鹿児島から南は高い高度以外、揺れてしまって飛びたくない場合が多い。
エアバス320は 39,000feet までしか上がれないが、
長い路線で燃料が多く、かつ乗客が満席に近いと、
西行きは 35,000feet までしか上がれない場合が多い。
そして、昨日もそうだったが、今日も 35,000feet 以下が揺れそうな雰囲気だ。

ディスパッチャーと向きあってブリーフィングを受ける。
会話を始める際、
「○○便のブリーフィングをお願いします。 お天気はどうですか?」
という入り方をする。
「311便(新潟行き)です。 鹿児島より南のエンルートはどうですか?」
(エンルートはどうか?=巡航するにあたり、どの高度が揺れそうで、どこが揺れなさそうか?)
えぇ〜っと、新潟から千歳へ行くのですよね?」(ディスパッチャー)
かなりマヌケな会話だ。
確かに、行き先を勘違いしている場合もあるが、
朝早いし、きっとディスパッチャーは私が寝ぼけていると思っているに違いない。
「あっ、すみません。 千歳から新潟、那覇まで行くので・・・・。」
そんなに飛ぶのですか?」(ディスパッチャー)
「そうなんです。 今日は日本一周コースなんです。
 でも、今日のパターンよりきついパターンもあるんですよぉ♪」
お疲れ様です。」(ディスパッチャー)

空港ごとに3レター・コード(3文字略号)が決まっている。
乗員は4レター・コードをよく使うので、3レターで勘違いすることがある。
私にとってまぎらわしい例。
新潟(KIJ)、鹿児島(KOJ)、熊本(KMJ)、宮崎(KMI)。
 九州内での勘違いは、まだましだが、
 大阪発新潟行きを九州行きと勘違いするとブリーフィングがえっらい違う。
 自分は乗務ではなく、便乗での移動で行き先を勘違いしてこともあった。
 以前の日記で書いた記憶がある。
 あれは熊本、鹿児島、宮崎のどこかとどこかを取り違えたケース。
 「チェック・インお願いします。」と航空券を差し出した。
 「はい、○○行きですね。」(GH)
 「えっ? 僕、△△に行くのですが・・・・。」
 「いえ、、○○行くのですよね?」(GH)
秋田(AXT)、旭川(AKJ)
 この2つは全然違うが、どちらも滅多に行かない空港なので、間違うことがある。
 関空発秋田行きかと思っていたのに、旭川行きだったりすると、フライト・タイムがかなり違うので、
 間違いに気がついた瞬間に、飛ぶ前から疲れがドッと出る。
 旧名古屋空港からの旭川行きで、キャプテン、コパイ、二人とも秋田行きと勘違いしており、
 その便の CA さん達も、出社するまでみ〜んな秋田行きと勘違いしていたことがあった。

 私だけではなく、きっと、みんな一度や二度は経験しているはず。

新潟発那覇行き。
コンピューターが計画した飛行時間と
タイムテーブルに載っているブロック・タイムがほとんど一緒だった。
(ブロック・タイム = タイムテーブルの到着時刻 − 出発時刻)
飛行時間には、Push Back、エンジンスタート、離陸滑走路までの地上滑走の時間、
滑走路手前で離陸を待つ場合の時間、着陸前に飛行機が多く遠回りをさせられる時間、
着陸後の地上滑走の時間、駐機所に入るまでの時間は入っていない。
定刻につけるはずがないことは、飛行機に乗る前から分かっている。
計画高度はやはり 35,000feet。
重量が重過ぎて 39,000feet には上がれない。
35,000feet より下を飛ぶほど飛行時間は2〜3分短いが、燃料はいっぱい燃やす。
高度を下げると、搭載予定の燃料量では那覇までたどり着けないので、
さらに搭載燃料量を増やす必要がある。
時間を2分縮めるのに、500kg近くさらに燃料を燃やさなくてはならない。
また、鹿児島より南は 35,000feet を含め、それ以下は揺れていた。
燃料を追加しなければ、新潟から上昇して九州までに燃料を燃やし、
飛行機の重量が軽くなれば 39,000feet まで上がれる、ギリギリの離陸重量だった。
当然、そのまま 35,000feet で行くことにした。

新潟から美保へ行き、岩国、大分、鹿児島、沖永良部を経由して那覇へ向かうコースを、
管制官にリクエストしてちょっとでもショート・カットして内側を飛ぶよう努力した。
ショート・カットするたびに、コンピューターが計算する到着時刻は1分弱縮まる。
予定通り、岩国のあたりで 39,000feet に上がった。
着陸時刻はほぼ定刻、または定刻+3分ほどに縮めた。
着陸してから待たされずに駐機所まで行けたとすると、3分もあれば十分だ。
アナウンスは定刻から10分遅れで入れてある。
この飛行機を使っての折り返し便は、那覇到着後45分ある。
次便にも迷惑をかけずに済みそうだった。

ところがだ。

鹿児島を出てしばらくすると管制官に指示された。
マック0.72まで減速しろ、と言うではないか!
マック0.79から0.72まで減速しろって、そりゃ〜、あんまりだぁ〜。
ATCを聞いていると、どうやら前に那覇行きが何機もいるようだ。

信じられないほど減速して、那覇の進入管制とコンタクト。
TCAS が計器に映し出す機影を見ながら飛んでいるので、既に250ktまで減速していた。
そのせいか、さらに減速するような指示はされないですんだ。
それにしても、私達の前10マイル先を私達より 9,000feet も低い高度で飛んでる飛行機って、
どんな降下計画を立ててるんだろう?
まっ、いっか。
先行機はこれしかいなさそうだし・・・・。
さらに高度を下げていくと、先行機のすぐそばに、もう1機、機影が移った。
私達より 5,000feet 下だっ!!!
ヌワヌィィイイイ〜〜〜〜〜????
すかさず230ktに減速。
イヤ、これでも足らないか。210ktまで自主的に減速。
いつもなら300ktで飛ぶところを、
遅れているのに210ktまで減速するのだからたまったもんじゃない。
コンピューターの計算する到着予定時刻はどんどん遅れる。
さらに高度下げて行くと、また別の飛行機の機影が映り、その数は増え続けた。
滑走路に対してあさっての方向に機首を振られ、永遠に飛び続ける。
私達の前に飛行機もいつまでもアプローチを開始できない。
にもかかわらず、さらに高度を下げていく。
もう、降りるのやめたら?
高い高度の方が燃費はいいし、揺れないし。

ようやく機首が滑走路に向きはじめた頃、ずっと気になっていたことを口にした。
「ねぇねぇ、うちの後ろって、いる?」
いえ、全然いないですね。」(コパイ)
やっぱビリかよ、オイッ!!!

先行機との距離は12マイルもあいていた。
羽田なら平気で3.5マイルまでつめるし、通常なら5マイル、
間隔の広過ぎる千歳ですら7、8マイルだ。
12マイルもあけてるってことは、うちと、うちの前の着陸機の間に、離陸機を入れる可能性が大きい。
この間隔なら1機だろう、きっと。
いや、待てよ。
那覇の米軍の管制官は、必要以上に管制間隔が開いていても、
つめてあげてちょっとでも早く着陸させてあげよう、という気持ちがないような気がする。
「なぁ、これってさぁ〜、出発機あるかなぁ〜。」
そうですねぇ・・・。 米軍は出発機いてもつめずに、ほっとくこともあるし・・・。」(コパイ)
彼も私と同じ見解であることに自信を持った。
「よっしゃ! コソッ、とつめるか。」
200ktまで減速していたが、210、220、230、240ktと加速していった。
少しずつ加速して前との距離をつめても、管制官、気がつかないこともある。
もし間に出発機を入れようとしていたとしても、
間隔が狭まり過ぎて、入れられなくなれば入れないはず。
先行機との距離はみるみる縮まり、9マイルとなった。

那覇のタワーの管制官に引き継がれてすぐ言われた。
ゲェェェエエエエーーーーーーッ?!?!?!?!
うちの前に2機も離陸機、つっこむのぉ〜????
今さら、無理っしょ???
そういうことは、もっと早く言えっつーのっ!
240ktから140ktまで一気に減速した。
それでも前の着陸機との距離は8マイルちょっと。
2機も入れるのは無理なんじゃないの?

アプローチはILSではなくGCAだった。
管制官がパイロットに降下率、機首の方位を無線で知らせ、ILSのように低高度まで誘導する。
GCAが始まる前に前置きがある。
これはGCAの管制官の練習です。
天気がいいときはよくあることだ。
GCAが始まった。
Turn right heading .... left heading 360.」(GCAの管制官)
おい、おい、間違うなよ!
コパイは笑っている。
GCAでのアプローチ中、ずっとそんな感じだ。
明らかに、本当に本当の初心者のようだ。
飛行機が滑走路に対して、全然違う方角を向いているのに、
途中から右旋回、左旋回の指示を出さなくなった。
自信、なくしちゃったかなぁ?
でも滑走路は見えてるから、彼の指示通りに飛んであげた。

誘導路には、私達の前に入る2機の飛行機の他に、3機、離陸を待っている飛行機が見えた。

2機目の離陸機が滑走路に入り、そして離陸した。
後方乱気流は大丈夫かなぁ?
風は真正面だし、20ktぐらい吹いてるから、問題ないか・・・・。
(後ろ斜めから弱い風が吹いている時は気をつけるよう、テキストには書いてある)
滑走路の進入端を通過し、もう少しで接地する、という所で、飛行機が右斜め前方に飛んだ?
????????
ワープしたような感覚に、すぐパワーを足しかけて、ゴーアラウンド?
と思って、すぐにその変な動きはおさまった。
滑走路に対してやや右ではあったし、パワーを少し足したため、高度も少し高くスピードも若干速かったが、
那覇の滑走路は長いし、路面はDRYだったので、しばらく着陸操作を続けた。
「ごめん、ちょっと伸びてるけど、つけるよ。」
コパイに一声かけて、接地点が滑走路のあまりにも内側にならないように(接地後の残距離が残るように)
意図的にタイヤをつけた。
NOショックなランディングではなかったが、まぁ、許せる範囲か・・・・。
でも、キャプテンたるもの、決して言い訳はしない。
さっきの気流、今までに経験したことのない、ちょっと変な感じだったなぁ〜。
自分でやったのか?
イヤ、違うと思う。

駐機所に入り、エンジンを切ったとき、定刻から15分遅れていた。
しかも、当初 PBB つきの Spot だったのに、オープン(バス移動)に変更されていた。
次便の出発も遅れるに違いない。

操作が全部終わり、しばらくしてコパイが言った。
さっき、何が起こったんですか?」(コパイ)
「何って? 何の事?」
着陸間際に飛行機があり得ない動き、しましたよね?」(コパイ)
「そうそう、気がついた? イヤ、あれ、オレが下手クソでしたのかなぁ〜?」
いえ、絶対違いますよ。 あれは人間にできる操作の動きじゃないですって。
 だって、位置が一瞬で動いてましたもん。
」(コパイ)
「そうかなぁ〜。 やっぱり、そう思った?
 あり得るのは後乱気流だけど、あんな動きは初めてだったし、わかんないなぁ。」
下手クソなキャプテン、とは思われていないようだった。
良かった、良かった。

もし、あれが後方乱気流だったのなら、やはり私達の前に1機しか入れるべきじゃなかったのかなぁ?
うちの後ろ、着陸機がいなかったみたいだし、
うちの前に2機、後に3機じゃなく、
うちの前に1機、後に4機でも良かったんじゃないかなぁ?



2005.04.08

機長昇格の審査では、口頭試問で空港の特性についても知識が問われる。
地理が大の苦手な私にとって、山や川の名前を聞かれることほど辛いことはない。
仙台空港近辺の障害物についてを聞かれ、空港に対してどちらの方角、どの程度の距離の所に、
どの程度の高さの山があるか答えたところ、「代表的な山の名前は?」と聞かれた。
審査の前日、覚えたんだけどなぁ・・・。
「ど忘れしました」、と答えると、
蔵王ですね。 それぐらいは覚えてください。」と言われた。

高松出身の友人がいる。
毎年、年賀状も出している。
高松って、何県にあるか知ってる?
社会人でこの質問に答えられないのは、チョビット恥ずかしい気がする。
じゃあ、四国、4県、言える?
もちろんこの質問にも答えられなかった。

一緒に乗務した元航空自衛隊の戦闘機乗りと話しをしていた。
日本地図に県の境界線だけ引いておいて県名を書き込ませたら、
 全部埋められない人っているかなぁ?
」(元戦闘機乗り)
ハイッ!! ハイッ!!
心の中で挙手しまくった。

小さい頃から歴史、地理、国語、古文、漢文が大嫌いだった私。
歴史上の人物名を覚えることもできないのに、漢字で書くことなんかできるわけもないし、
年代を覚える、なんていう、全く意味のない行為をすることがイヤだった。
県名、県庁所在地、山、川、湖の名前、国名、主都、人口、生産物など、覚えられるはずがなかった。
漢字のテストはいつもビリ。
四文字熟語なんて全然知らない。
中学受験に必要だからと、強制的に親に有名な小説を読まさせられたが、
読み終わった数日後にはストーリーを覚えていないし、
登場人物、ときには主人公の名前すら覚えていない。
それでも小説名と著者だけは記憶させられて、辛かったことを覚えている。
いわゆる「一般教養」と呼ばれる分野の知識が、
誰よりも劣っていると1000%自負しているスーパー非常識人だ。

元戦闘機乗り。
地上移動で旅行するのが大好きなようで、最近行った場所の話になった。
イヤ〜な予感・・・・・・。

志摩半島?
聞いたことあるけど、どこだったっけ?
きっと、私がポカーンとした顔をしていたのだろう。
ほら、伊勢のそばにある半島だよ。」(元戦闘機乗り)
伊勢といえば、確か真珠で有名なんだよな。
いつか、真珠を買いに行きたいと思っていて、伊勢に行けばいいことは知ってるが、
伊勢ってどこにあるか知らない。
紀伊半島のどっかだ。
伊勢神宮は知ってるよね? めおと岩は?」(元戦闘機乗り)
は?
これはマズイ。
あわててフライトバッグからアナウンス用の日本地図を取り出した。
紀伊半島での旅行の話から発展したから、きっと紀伊半島のページを見ればいいんだろう。
見つけたーーーっ!!!!
志摩半島!!
あっ、この半島、数日前、アナウンスを入れるときに地図で調べた場所じゃん?!?!
伊勢もあったぁぁぁああああーーーーーっ!!
串本の近くにあると思ってたのに、超ビックリだ。(串本は航空路が通っているので知っている。)
恐る恐る聞いてみた。
「伊勢の近くに松坂ってあるますけど、これってまさか松坂牛の松坂じゃないですよね?」
そうだよっ! その松坂だよっ!!」(元戦闘機乗り)
ひょえ〜〜〜〜〜ッ!?!?! 知らなかった。
松坂牛って神戸じゃないんですか?
あれっ?????
伊勢湾って、こんなところにあるんですかっ?!?!?!
そうだよっ! 伊勢湾台風って聞いたことあるでしょ?
 あんたさぁ〜、中部空港に行ってるのに、伊勢湾知らないの?
」(元戦闘機乗り)
すみません・・・・・・。
「あっ! 津ってここにあるんだ!
 お゛っ!!! 鈴鹿?
 これって、鈴鹿サーキットの鈴鹿ですか?」
そうだよっ!!!」(元戦闘機乗り)
彼の視線・・・・、同じような視線を感じることが時々ある。
うん、きっとあれは軽蔑のまなざしだ。

こんなにビックリした発見だが、
きっと数週間後?数ヵ月後?には覚えてないんだろうなぁ・・・・・・。

アナウンスを入れるために何十回と地図をチェックしたが、
未だに潮岬、室戸岬、足摺岬が、どれがどこだか分からない。
脳ミソが拒絶反応を起こしているに違いない。

そういえば、アメリカ留学時代、歴史が大好き、という友人がいた。
ありえない。
なんで?
聞くと彼女はピラミッドが大好きで、ピラミッドのことばかり調べている、と言うではないか?!?!
歴史って、年代や人名を記憶するものじゃないの?
彼女曰く、自分の大好きなことだけ調べ続け、それに関して学期末最後に論文を書く。
テストはそれだけ?
いいなぁ〜〜〜〜〜。
大学の試験じゃやなくて、高校の試験だぞ?
私だったら、恐竜なら好きだから、恐竜時代のことだけ調べあげて、論文を書けばいいわけか。
そんな教育をしてくれれば、きっと私でも歴史が大好きになっただろうなぁ。

きっと同じような方法で地理の授業をしてくれれば、私も地理が嫌いにならなかったろうに。



2005.04.09

千歳 → 新潟、770便。
770便のお客さん達が搭乗してくる様子を見ていて、その客層に驚いた。
妙に若い格好をした金髪のファッショナブルな女性達の集団に続き、
今度はかっこいい服装の若い男性達が見えた。
しばらくして、また金髪の女性の集団が現れた。
時々、そういう人が数名乗ってくることはあるが、団体の旅客で見かけることはほとんどない。

「高校生よりは大きそうだけど、学生って感じじゃないし、社会人っぽくはないし、
 服飾の専門学校生の修学旅行ですかねぇ?」
ロック歌手の追っかけみたいな感じもするねぇ。」(元戦闘機乗り)

搭乗旅客の情報をコックピットに伝えるため、
客室乗務員(CA)さんがインターフォンで呼んできたとき聞いてみた。

「何の集団ですか?」
分かりません。」(CA)

Spot 3番から Push Back 始めると、すぐに、Spot 2番の Cathay がPush Back をリクエストした。
もちろん、私達の飛行機が Cathay の後ろへ行くので彼らは待つこととなった。
危ない、危ない。
もう少しで、うちが待たされるところだった。

Engine をかけ終え、Runway 01L へ向けて Taxi を始めると Cathay が Push Back を開始した。
それからしばらくして Spot 1番にいた EVA が Push Back をリクエストするのが聞こえた。

770便の乗客は少なく、
客室内での出発準備完了の合図はいつもより早くくるであろうと予想していた。
しかし、なかなかこない。
ようやく来た、と思ったら、別の用事だった。

後方の若い女性のお客様、お腹が痛いようで、今、胃薬を渡しにいくところです。
 出発準備完了まで、もうしばらくかかりそうです。
」(CA)
「わかりました。」

「うちの後ろはインター(国際線の Cathay と EVA)で、きっと Full Length で上がりたいでしょうから、
 うちは A8 でしばらく待機しましょうか。」
了解。 じゃあ、Due to cabin preparation で A8 で Hold するって言っとくね。」(元戦闘機乗り)
(Full Length = 滑走路の端から離陸滑走を始める)

(インターは燃料を沢山搭載しているので、滑走路をいっぱいいっぱい使って地上滑走したいはず。
 うちは飛行機が軽く、離陸滑走をそれほど必要をしないので、
滑走路の途中から離陸をしてもいいので、 A8誘導路から滑走路に入ればいい。
 Cathay と EVA が滑走路末端の誘導路まで行く邪魔をしないように、A8で待機しましょう。)

A7 の横を通過するころ、CA さんがインターフォンで呼んできた。
先程のお客様、食べ過ぎでお腹が痛かったようで、出発大丈夫そうです。
 客室の準備完了しました。
」(CA)
そして Cathay よりも先に770便は無事、千歳空港を離陸したのだった。

その後、上空で再度 CA さんから聞いた話では、
その若い女性、トイレで吐いてスッキリしたようだった。




2005.04.12

千歳空港で時間があった。
私はロビーで雑誌を読んでいた。
すると、向こうから昨日、今日とファーストを勤める客室乗務員(CA)が歩いてきた。
(ファースト=客室乗務員の中の責任者)
あれっ?
一緒に誰かいるぞ・・・・・。
あっ、お母さんか。
きっとそうだ。

昨日が、彼女にとってファーストとして最初の乗務だったことは知っていた。
きっと、お母さん、彼女のファーストとしてのファースト・フライトを乗りに来たのだろう。
でも、それって昨日だよな・・・・。

事務所に戻ると彼女を発見。
「さっき一緒に歩いていた女性、お母さんですか?」
はい、そうなんです。」(CA)
「ファーストとしてのファースト・フライトを乗りに?」
はい。 でも、昨日の1713便(関空→千歳)が満席の予定で、乗れなかったんです。
 待ってれば空席が出て乗れる、って言ったのに、一つ前の便で千歳に入って待っててくれました。
 今日、千歳→中部に乗ってくるんです。
」(CA)

千歳→中部は夜間のフライトで、寝てる人が多いはず。
いつもならアナウンスを入れないが、できるだけ迷惑がかからないように、
上昇中の早い時期に入れることにした。

ディスパッチでのブリーフィングや天気図、衛星画像の雲の写真等によると、
今日は 30,000ft より上は揺れる。
雲の頂上は 35,000ft 程度。
ずっぽり雲に入って 28,000ft であれば揺れないですむ。
それらの情報から総合的に判断して、中部空港まで雲の中の飛行で、恐らく外は見えない。

千歳を離陸してすぐ、巡航に達する前に
1.今日の巡航高度は 28,000ft
2.上昇中は揺れるが、巡航の 28,000ft は揺れない
3.中部空港まで雲の中の飛行である
という内容のアナウンスを入れた。

上層して 28,000ft に達してベルト・サインを消した。
おかしい。
雲の上に出ている。
上にはきれいに星が見えている。
もう少し南に行くと雲に入るのだろうか?
夜で真っ暗なため、遠くの雲の状況がいまいちよくわからない。
ベルト・サインを消してすぐ、雲の頂上ギリギリとなり、揺れだした。
マズイじゃん。
揺れば次第に強くなっていった。

「ごめん。 カンパニー(無線)で揺れの情報、聞いてみてくれる?」
コパイに頼んだ。

なになに?
28,000ft は雲の中で揺れないって?
32,000ft 〜 33,000ft はベース(上の雲の底)にひっかかって揺れる?
そんな雲ないぞ??
30,000ft より上は揺れて、28,000ft は揺れのレポートが入ってない??
おっかしいなぁ〜・・・・・・。

高度を下げてズボッと雲に入った方が揺れないか?
でも、意外と雲低いから、きっと 24,000ft 以下に下がらないとダメだろうなぁ。
燃料は多めに積んでるから高度を下げても大丈夫だけど、
本当に 30,000ft より上、揺れるのだろうか?
今日の上空の風向、風速の変化傾向から考えると、風が原因で揺れるようには思えない。
揺れるとしたら、きっと雲が原因だ。
見た感じ、30,000ft より上なら雲の上を飛べそうだ。
上がってみるか・・・・・。

暗闇の中、近くを飛ぶ飛行機の明かりが見える。
どれも私達より下だ。
どうしよう・・・・・。

よしっ。
「31,000ft もらってくれる?」

恐る恐る 31,000ft に上がってみた。
雲の上だ。
しかし、揺れは止まらず 28,000ft よりひどい気がする。
明らかに雲の影響ではない。
風向、風速はほとんど変わってないから、風でもなさそうだ。
トロポかなぁ?(トロポ = Tropo = Tropopose = 対流圏界面)

中部空港までは、まだだいぶある。
もっと上がっても巡航の時間は十分取れる。
お客さんも40名程度で、サービスには時間がかからないはず。
誰も高いところ、飛んでないみたいだけど、上がってみるか・・・・。
よし、上がろう。
「35,000ft もらってくれる?」

35,000ft もダメだ。
なんでぇ〜〜〜〜〜???
やっぱり、カンパニーが言うことを素直に聞いて、高度下げれば良かったかなぁ?
客室のアナウンスが聞こえた。
ベルトサインは消えているけど、揺れているのでベルトはそのままお締めください、という内容だ。
このお決まりのアナウンスが入ったとき、
揺れがひどすぎて客室のサービスはかなりきつい、と考えられる。

「39,000ft もらって。」

35,000ft を離れてすぐ、揺れは強まった。
「これはダメだ。 ベルトサイン、ONにして。」

37,000ft にさしかかると、風が変わり揺ればさらにひどくなった。
良かった、ベルトサインつけて。

38,000ft 通過。
まだ揺れる。
38,500ft 通過。
おっ、揺れが止まったぞ。
39,000ft。
全く揺れない。

「ちょっと(ベルトサインONのまま)様子みるね。」

数分たっても、まだ揺れない。
インターフォンで CA さん達を呼んだ。
幸い、ベルトサインをつける前にすでにサービスは終わり、カートの後片付けもしていたようだった。
「ありがとう。
 アナウンスでウソついちゃったけど、28,000ft 揺れたから 39,000ft に上がってみた。
 予想はずれてごめんね。
 39,000ft は誰も飛んでなくれ、揺れのレポート入ってないんで、
 今からベルトサイン消すけど、気をつけて動いてね。」

しばらく飛んでみたが、39,000ft 良好〜♪
どこかの飛行機がカンパニーで 26,000ft が揺れるけど、良さそうな高度はどこか、聞いてる。

「カンパニーにレポート、入れてあげてくれる?」
恐らく 39,000ft は揺れる、揺れる、とみんなが思い、誰も飛んでないから上がらない、
自分も上がらない、というのがみんなの心境だろう。

カンパニー無線で 39,000ft のレポートを入れると、カンパニーの応答の後、
ありがとう」 という声が聞こえた。
きっと、さっきの飛行機だ。
聞いていてくれたみたいだ。

札幌のカンパニーから周波数を関東のカンパニーに代えた。
新潟上空を飛んでいると、私達の後ろを 39,000ft で飛んでいる、千歳→関空の飛行機の声が聞こえた。
なに、なに?
庄内の西で Moderate の揺れがあったって?
ほんとかいな?
さっき、そこ通ったぞ。
うちは揺れなかったけど。
危なかったなぁ。
その飛行機は、日本海側の 39,000ft の揺れの状況を聞いていた。
しかし、関東のカンパニーは情報をもっていなかったようだった。

「新潟まで 39,000ft スムースって、言っておいてあげてくれる?」

気流の擾乱、タービュランスは、予測が全くつかないから怖い。
揺れのレポートがあった場所を、数分後に飛んでも揺れないことが多々あるし、
またその逆もありえる。

幸い、中部空港まで 39,000ft は気流スムースだった。
アナウンスで100%ウソをついてしまったのは、とても恥ずかしいことだ。

飛行機を降りてから、ファーストを勤めた CA さんのお母さんと一緒に、
みんなで記念撮影をした。
お母さんに喜んでもらえたようだった。
良かった、良かった。

ファーストさんによると、お母さん曰く、
今日の機長さん、とってもアナウンスが丁寧で良かった、とのこと。
そう言って頂けて嬉しい反面、内容をはずしまくって格好悪かった。



2005.04.22

千歳空港で中開き、3時間。
客室乗務員(CA)さん達と同じパターンだ。
小袋に入っているジャガイモのお菓子を、何度か CA さんに頂いた。
ポテトチップスと同じ原理で作られていると思われるが、
食感がチップスと全然違い、とてもおいしい。
CA さんにもらったそのお菓子を、家に持って帰り、妻にも食べてもらった。
なかなか好評だった。
北海道でしか買えないこのポテトのお菓子は「ポックル」と呼ばれている、
今日は絶対 「ポックル」 を買おう!と心に決めていた。
しかし、どこで売っているのか私は知らない。

「ねえ、ねえ。 ポックル、今日、買いに行くぅ?」
行く、行くぅ。」(CA)
「じゃあ、僕も一緒に連れてってください。」
えぇ〜、ヤダ〜。 教えてあげないぃ〜。」(CA)
「そんな意地悪言わないで、連れてってよ〜ん。」

CA さん4名と一緒に、ポックルを買いに行った。
ちょうど売店の女の子が、空になったポックルの棚を埋めるため、
在庫のポックルをかかえて歩いているのを発見。
「それでラストですか?」
いえ、まだありますけど、いくつ必要ですか?」(売店の女の子)
私、2つ。」(CA A)
私はいいです。」(CA B)
「僕、1つ。」
私は1つ。」(CA C)
私はいいです。」(CA D)
あれぇ〜、Aさん、棚の端から端まで買い占めるって言ってませんでしたっけ?」(CA B)

時々、CA さんが買い占めて、なくなってしまうこともあるほど、
人気のあるポックルを持ってレジへ行った。
ちょうどポテトチップス、一袋ほどの量が入っていると思われるポックルの箱。
空港で売ってる限定商品だから、きっと値段は高めだろう。
まぁ、400円ぐらいが妥当か。

え゛え゛え゛〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!?!?!?!?
一箱が840円もするのぉっ?????
そりゃ、ボッタクリもいいとこだ。
千歳空港ではかなり売れてるみたいだし、ネットで買おうとすると何ヶ月も待つほどの商品らしいが、
どうりでバンバン作って全国で売らないわけだ。
そんなに高かったら、よっぽど稀少価値が高くなきゃ、絶対売れない。

恐らく私は二度と買わない。