2005.07.01

関空 → 女満別 → 関空 → 羽田
梅雨前線のような、しかし、初夏の積乱雲のような、とにかく雲の多い日だった。
女満別→関空(1793便)は 37,000ft、関空→女満別(1794便)は 39,000ft で飛行した。
カンパニー無線でレポートを聞いていると、35,000feet 以下は全部ダメ。
かろうじて、FL370、FL390、FL410 がゴトゴト程度の揺れで収まる、という感じ。
いったい、どこ飛びゃいいの?という状態だった。
A320は FL410 には上がれない。
お客さんが多く、飛行距離が長くて燃料が多いと、FL390に上がれないことが多いが、
幸か不幸か、女満別→関空 は比較的お客さんが少なく、FL390に上がることができた。

1793便は修学旅行の学生が乗っていた。
飛行機に乗りこむ前、一緒に乗務したキャプテンが言った。
あの制服、多分、うち(自宅)のとなりの○○高校だな。」(キャプテン)
客室乗務員(CA)さんに聞いてみると、やはりそうだった。
なんとも奇遇ではないか。
これはいいネタだ。
機内アナウンスで使ってみようか、と思ったが、偉いキャプテンだったので、差し控えることにした。
残念・・・・・・。

37,000feet の予想風は最大でも 110kt 弱だったが、実際には 140kt も吹いていた。
しかも、ずっと強い風だったわけではなく、東北のエリアで 110kt から 140kt に急激に速度が増し、
その後、急激に 90kt 程度まで減速した。
シートベルトサインをつけ、「これから揺れます」 とアナウンスを入れ始めた、まさにそのとき、
機体が大きくガタガタ一時的に揺れ、アナウンスが終わった頃、揺れは収まってしまった。
予想が当たったと言えば当たったのだが、もう少し長時間揺れるかと思っていたので、
どちらかというと、はずしたような気分だった。

風速の急変した東北のエリア以外も、中部地方の高い雲の Top 近辺では揺れが続き、
CA さんはそんな中、頑張ってサービスをしてくれて、とても助かった。

女満別→関空、1794便は唯一揺れが少ない FL390 を飛んだ。
とはいえ北海道の上空は風が弱く、東北のエリアでは 140kt 吹いており、
さらに短い時間に 100kt 程度まで減速するはずで、
明らかかに揺れるであろうことは分かっていた。
だからといって、揺れるエリアを過ぎるまで、離陸してからずっとベルトサインをつけていると、
離陸後30分以上、ベルトサインはつきっぱなしだ。
上昇中、途中からベルトサインを消したとして、そこから揺れそうなエリアまでは20分程度。
お客さん100名程度だと20分間でドリンクサービス、終わるか、終わらないか、ギリギリのところ。
CA さんにインターフォンで連絡した。
「今から20分弱は揺れないけど、そこから先、1793便で揺れた場所を通過するので、
 ベルトサインをつけるかもしれません。」
そう伝えてベルトサインを消した。
東北の揺れそうな青森の上空を通過しかけたまさにそのとき、
インターフォンで CA さんに呼ばれた。
サービス、終わって、カート片付けました♪」(CA)
「ありがとう。
 今から揺れる可能性あるんで、いつでも座れるように準備だけしといてくれますか?」

雲の形から、1793便のときほどは揺れないような気がしていた。
そして、案の定、コトコト程度の揺れで収まってくれた。
ラッキ〜♪
ベルトサインはつけずに済んだのだった。

女満別を出発する前、ディスパッチで近畿エリアの積乱雲の状況は確認した。
鳥取、岡山のあたり、中国地方を覆うように積乱雲の壁ができていた。
その動きから、私達がその近くを飛ぶ頃、
少しずつ勢力を弱めながら南下しているであろう、と予想していた。
代替飛行場として当初(1793便で出発前)伊丹空港を予定していたが、
女満別に到着後、中部空港に変更していた。

小松のあたりまで飛んでくると、機上のレーダーでも積乱雲のエコーが映る。
うう〜ん、予想以上にヤバそうだ。
さらに近づくと、さらにエコーがはっきり映る。
お゛っ!! 隙間、発見っ!!
関空へ北からアプローチする際に通る鳥取、SAEKI という地点の真上から岡山にかけて、
強烈なエコーが映っていた。
その手前にわずかな隙間が南北にあり、その東から伊丹空港にかけて、
別の強烈なエコーがあった。
関空のエリアに入っていくとき、SAEKI より東を通してくれるかなぁ〜?
ダメなら鳥取−岡山を結ぶラインの西からアプローチするか・・・・。
管制官に聞いてみると・・・・、OKが出た!!
よっしゃ〜。

シートベルトサインをつけて、恐る恐る強烈なエコーの隙間に入っていった。
ピカッ! ピカッ! と時々外で光っている。
コエ〜。
被雷するかも・・・・・。
それまで気流はスムーズだったが、突然、ガァァァァアアアアーーーーーーッ!!!!
と揺れだした。
コックピットの前面のガラスには、バケツをひっくり返したような雨がぶつかる。
管制官に通りたい進路を要求しながら、右へ左へ旋回しながら高度を下げていった。
そろそろ瀬戸内に出る。
このまま南に進み続けるわけにはいかない。
どこかで左旋回して東へ行かなければ関空へたどり着けない。
でも、左に曲がりたくない。
メッチャ、真っ赤なエコーを左手に機上レーダーが映し出している。
どっかで突っ切らなきゃ・・・・・。
どっから入るかなぁ〜?
TCAS が映し出す機影を計器上に発見。
その飛行機は、私が入りたくない積乱雲の中を突っ切って行ったであろうはずの場所にいる。
そっか、あいつ、このエコーの中に入ったんだ・・・・。
入んなきゃ、絶対関空には行けないしな。
よしっ! そろそろ入るゼイ。

管制官に左旋回を要求し、恐る恐る、入ってみた。
すると・・・・・、ギョェェェエエエーーーーーーーーッ!?!?!?!?!
すんげぇぇえええーーーーーー、揺れるじゃん?!?!?!
ガッタガタなんてもんじゃないぞ??
あぁ〜、お客さん、酔うぞ、これ。
ごめんなさいぃぃぃーーーーーーっ!!
とりあえず、
揺れても全く、完璧に、飛行の安全性には影響ないから心配しないでネ♪
という内容のアナウンスを入れた。

しばらーくして、雲を抜けた・・・・・・・。

そこから先は関空の ILS 24 で着陸するまで気流は良好だった。

着陸して、駐機所に入り、しばらくして外が真っ暗になり、
ザァァァアアアアーーーーーーッと雨が降り出し、飛行機が左右に揺れだした。
風が強くなったのだ。
さっきの積乱雲が関空の真上に来たに違いない。
タイミング良く着陸できて良かった、良かった。
今だったら、着陸できないかもしれないな・・・・・。

関空→羽田 の飛行計画をもらいに行くために、ディスパッチへ行った。
関空を離陸できるのか?
上昇中、エコーをどうよければ良いのか?
エコーの状況をコンピューターでチェック。
ギョェェエエエーーーーーッ?!?!?!
関空周辺、エコーだらけじゃん??
これ、離陸するの?
メッチャ、揺れるんだろうなぁ〜。
私達、1794便の後から関空へアプローチしていた飛行機が、
関空に着陸できず Missed Approach し、
あきらめて伊丹空港へ向かった、との情報をディスパッチでゲット。
関空では、350度から 30kt、ガスト 41kt 吹いていた。
雨が降っていると横風制限は厳しくなるので、これでは当然降りれない。
もし、滑走路が Dry でも、横風制限は超えている。
仮に、横風制限未満、ギリギリだったとしても、この方向の風だと気流はかなり悪い。
やっぱ、私達の後ろの飛行機は、降りれなかったんだ。
うちらはいいタイミングで着陸できて良かったなぁ〜。
で、伊丹空港も天気悪いんでしょ?
伊丹空港の天気をチェック。
大雨だ。
視程は2500mか・・・。
着陸はできるだろうけど、ダイバート先としては行きたくないかも。
大阪の上はどこもかしこも積乱雲だらけだ。

エコーの様子を見ると、関空の真上に大きな塊が一つ。
西にはさらに強烈で大きなエコーの塊が一つ。
東に動いていた。
二つのエコーの隙間に少しだけ隙間があった。
エコーの移動速度と羽田行き148便の出発予定時刻を考えると、
恐らく離陸すること、ちょうど関空の上にはエコーの隙間がきているはず。

飛行機に戻った。
コックピットで出発の準備をしていると、積乱雲の移動とともい風向きが変わり、
それまで Runway 24 を使用していたが Runway 06 に変更された。
Runway 06 に向かうと地上滑走する距離が遠くなる。
離陸までの時間も余計にかかる。

エンジンをかけ、地上滑走していると、西から接近している真っ黒い積乱雲の影が見えた。
時々、ピカッ、ピカッ、と光っている。
早く離陸したい。
でも、うちの前に離陸機がいる。
また、着陸機もかなり続いているようだ。
ヤバイかも・・・・。

Runway 06 の手前で離陸を待っていると、風が再び変わりだした。
Runway 06 よりの風が少しずつ西に回った。
240度から3kt。
離陸重量に対してかなり余裕のある離陸出力を選んでいたので、追い風10kt入っても余裕がある。
だが、追い風が強くなりすぎて、うちが離陸する前に再び Runway 24 に変わってしまうと、
反対方向へ地上滑走し直さなくてはならない。
余計に時間がかかるし、その間に積乱雲が関空の真上に来て、離陸できなくなる可能性もある。
一刻も早く離陸したい。

うちの前にB767が上がり、その後、着陸機が2機続き、そしてうちの番が来た!
風は280度から8kt。
追い風だけど問題ない。

Runway 24 に入った。
前方の黒い雲がピカッと光った。
右斜め後ろは、さっきからピカッ、ピカッ、光り続けている。
真後ろと左斜め後方も、時々光っていたっけか。

エアバス独特の金属音混じりの最大離陸出力を設定。
機体が浮いてすぐ、追い風15ktほど吹いていた。
Runway 06 を上がってしばらく北東方向に飛び、左旋回して西へ飛び、
それから再び左旋回して東へ飛ぶ。
近畿エリアの騒音を減らすための飛行ルートだ。
機上レーダーを見ると、空港周辺は全て積乱雲に覆われていたが、
幸い、離陸後の飛行経路上には入ったらヤバイ感じのエコーはなかった。
しっかし、揺れた。
当たり前か。

羽田へ西からアプローチしている飛行機のレポートでは、
41,000feet から 10,000feet まで、全ての高度で揺れている、とのことだったが、
実際、飛んでみるとそうでもなかった。
23,000feet で気流はほぼスムースで飛行することができた。

羽田は VOR B Approach。
機長になってからするのは初めて。
っていうか、このアプローチ、やったことあったっけか?
着陸滑走路は Runway 22。
初めてのアプローチだったが、気流も良好だったし、視程も良く、
ずっと手前から滑走路が見えていたので、問題なく着陸することができたのだった。

今日は、本当に内容の濃い一日だった。



2005.07.12

新潟 → 伊丹 520便
お客さんは満席の予定だった。
伊丹空港の東にあった積乱雲は弱まりながら東進し、経路上からなくなっていた。
通常飛ぶ高度は揺れがレポートされており、
22,000feet か 24,000feet が良いとのことだった。
いつもより高度が低ければ、それだけ巡航、水平飛行の時間は長くなる。
伊丹空港へのアプローチは、雲にさえ入らなければ降下中も揺れなさそうだった。
新潟からの上昇中は雲の Top が 11,000feet。
それより上は揺れないことは、千歳から来たときに北からアプローチした際に分かっていた。

520便の出発前のブリーフィングを客室乗務員(CA)さん達とした。
「シートベルトサイン、何分消して欲しいですか?」
20分お願いします。」(CA)
「随分控えめですね。 もっと消して欲しいんじゃないですか?」
えぇーーっと・・・・・。 じゃーあー、40分?」(CA)
「マジっすかぁ〜? それはかなりキツイなぁ〜。 離陸してから着陸まで57分だから・・・・。」
スミマセン。 無理言って。 30分? いえ、25分あれば十分です。」(CA)
「分かりました。 最低35分。 頑張って40分ですね。」
え゛ぇ゛ーーーーーっ!?!?! そんな・・・、いですよぉ〜。」(CA)

PBB(Passenger Boarding Bridge)を渡って、ターミナルからお客さんが乗ってきた。
コックピットに近い PBB の窓から、おばちゃん達がこちらを覗いている。
なんとなくノリの良さそうなおばちゃん達だ。
ちょっと、手を振ってみるか・・・・。
うぉぉぉおおおーーーーーっ!!!
スンゲェ〜、反応!?!?
おばちゃん達、大喜びで手を振り返してきた。
その後、窓を通るおばちゃん達、みーんな、(声は聞こえないが明らかに)大笑いしながら
手を振ってくれるではないかっ!?!?
コックピットでの出発前の準備は全部終わっていたし、ただ座って待っているだけだったので、
こっちも手を振り返し続けた。
すると、みんなが飛行機へ向かって進んでいく方向に逆らって、
反対側からおばちゃんが窓に現れた。
んっ????
ギョェェェエエエ〜〜〜〜〜ッ!?!?!?!?
投げキッスされちまったぞ??????
おばちゃんの愛を受け止めきれず、私は思わず後ろにのけぞってしまった。
その後のおばちゃん達にも手を振り続け、みんな通り終わったとき、
私はまだヘラヘラ、ニヤけていた。
その顔のまま、次に通った男性のビジネスマン風の人とバッチリ目が合ってしまった。
男性、ムッとしていて、不機嫌そうだった。
非常にバツが悪かった。
何、オマエ、チャラチャラしてんだよ。」 という感じの表情のような気がした。
そうだよな。
私も仕事中なので、投げキッスされて浮かれている場合ではなかったかもしれない。
私の行動のせいで、彼が悪い気分にならければ良かったのだが・・・・・。

シオートベルトサインを消して、すぐにストップウォッチをスタートさせた。
22分、経過したところでインターフォンで CA さんに呼ばれた。
サービス終わって、あと片付けるだけです。」(CA)
満席で、22分でドリンクサービスがひと段落するのは、かなり早い。
さて、ここからが勝負。
あと、18分も消し続けなければならない。
コンピューターが計算する到着時刻は、ほぼ定刻。
着陸10分前にはベルトサインをつけなければならないので、今の時間から計算すると、
着陸10分前まで、あと16分しかない。
う〜〜〜ん、困った・・・・・。

新潟を離陸後、すぐに左旋回、松本へ直行するよう管制官の指示があった。
それが1〜2分ほどの時間短縮となっていた。
早く着陸できるし、燃料量も減らせるし、管制官の好意は大歓迎だが、
今日はそれが仇となっていた。
が、しか〜し、幸運?不運?にも、知多半島の手前で減速させられた。
私達の飛行機より上、左手にANAの飛行機を発見。
仙台発伊丹行きだ。
これで、1〜2分、到着が遅れることとなった。
コンピューターが計算する着陸予定時刻によれば、
ターミナルまで地上滑走し、駐機するまでの時間を足しても、ほぼ、定刻予定だ。
ヨッシャーーーーッ!!!!!
もらったゼィ〜♪
シートベルトサインを点灯させ、着陸10分前の合図を出したとき、
ストップウォッチは40分22秒だった。

宣言通り、ベルトサインを40分消したし、到着は±0分で、ジャスト定刻だし、
満足気に着陸後、地上滑走をしていた。
そして、何気に時計を見ると・・・・・・。
あれっ??
どこで時間、余計に食ったんだ?
ヤッベ!! 1分、遅れてるじゃん!?!?

結局、到着ジャスト定刻の計画を果たせなかったのだった。

お客さんが全員降り終え、コックピットを出た。
「40分、ベルトサイン消しましたよぉ〜♪」
ですよねぇ〜。 サービス終わったことを連絡してから、
 随分長いことサイン消えてるなぁ、と思って、時間をチェックしてました!
 機販(機内販売)が結構売れて、いつもより支払いに時間がかかっていたので、
 本当に助かりました。 ありがとうございました。
」(CA)
「ところで、搭乗中、おばちゃんが何か言ってませんでした?」
そうそう、とても嬉しそうに、『キャプテンに遊んでもらっちゃったァ♪』って。
 大はしゃぎできたよぉ〜♪
」(CA)
「そうですか。 それは良かった。
 搭乗中に窓越しに投げキッスされちゃったもんでねぇ〜♪」
「エ゛エ゛ェ゛ェ゛ーーーーッ!?!?! 本当ですか??」(CA)

みんなに喜んでもらえたかな?
あの男性客のことが、ちょっと気がかり・・・・。



2005.07.13

幼稚園の見学に行った。
建具や床の感じがとっても古めかしい、懐かしい校舎の幼稚園だった。
ワクワクしながら教室の見える廊下を歩くと、
子供たちが楽しそうに歌を歌ってるのが見えた。
カメやらザリガニやら金魚やらがいるし、もう、ダジー(私)、大興奮!!
シンちゃん、そっちのけでウロついてしまった。

廊下の一番端の教室の中を覗くと、男の子と目が合った。
ニヤニヤ笑ってる。
みんな輪になって歌を歌っており、他の子は私に気がついていない。
教室の一番端の窓の影に隠れ、ちょっと間を置いて顔を出してみた。
すると、今度はこっちを向いている男の子、数人が私に気がつき、指を指して笑っている。
再びちょっと隠れ、今度はメッチャ変な顔をして窓枠の横から首だけ出してみた。
輪になって向こうを向いて座っている男の子達も、こっちを振り返って笑っている。

同じことを何度かすると、かなりの子達がこっちを見るようになった。
そんじゃあ、と、廊下に四つんばいになり窓の下を通って教室の中央まで行き、
突然、ニョキッと窓枠の下から首から上だけ出してみた。
み〜んな、メチャメチャ喜んでいた。
この頃までには、後ろを向いてピアノを弾いている先生も、
さすがに気がついたようだった。
ヤッベ!!
先生に会釈して退散した。
いかん、いかん、クラスジャックしちまった。
しかーし、反省する割りにはまたしたくなってしまう変なオジサン。
再びソローッと教室の窓から変な顔をして首を出した。
今度もかなーり受けたようだった。

しばらくして、授業が終わり、子供たちが教室から出てきた。
あっ! さっきのおじさんや!」(子供A)
おじさん、なにやってんのぉ?」(子供B)
おじさん、なんであんなことすんのぉ? ダメやんか?」(子供C)
「ゴメン、ゴメン。 悪かったなぁ。 もうしないから許してな♪」

プールに入る前の準備体操が、またまた楽しそうではないか?
「なぁなぁ、乱入してもいいかなぁ?」
やめときって!」(妻)
「えぇぇ〜。 ダメかなぁ〜。 きっと大丈夫だよ。」
やめときって! 迷惑やから。」(妻)
「そっかぁ〜?」
却下されて仕方なく、シンちゃんと静かに眺めたのだった。

帰りがけに男の子(子供A)に 「かけっこしよう!」 とさそわれ、園庭を走り回った。
とっても楽しかったぞぉーーーーっ!!!

会社から有給とって、幼稚園の学費払ったら、私も通えないかなァ〜?
臨時の体育の先生でも、絵本の読み聞かせの先生でもいいんだけどなぁ〜。

あまりにも見学会が楽しすぎて、家に戻るとすでに11時を過ぎていた。
いかんっ!
シンちゃんを連れて十六名公園に行かねば。
暑い日は水遊びをするに限る。
最近は昆陽池を通り越して十六名公園まで自転車で行くことが多い。
片道15分もサイクリングすると、
2往復した日などは結構疲れるが、楽しいのだからしょうがない。

えぇーっと、11:15に家を出れば、11:30には着くだろ?
きっとお母さん達は12:30頃に帰るから、1時間は遊べるな。
案の定、沢山の子供達が水遊びに集まっていた。
シンちゃんはお友達のオモチャでずぅーっと一人で遊び続ける。
私の回りにはシンちゃんより、大きい子達が3、4人集まってくるので、
彼らと遊び倒すのだ。
って、ダジーが遊んでてどーすんだよっ!

公園に行った帰り道、倒れそうになりながらヨロヨロ歩いている中学生を発見。
肩から斜めにカバンを下げて歩いているが、それがやけに重いようで、
上半身は地面に対して45度ぐらい傾いている。
信号待ちしている私の前でドサッとカバンを下ろし、肩にかけてあったタオルで汗を拭き、
そしてまた重そうにカバンを持ち上げ肩にかけ、ヨロヨロ歩きだした。
信号が青になり、横断歩道を渡りながら振り返ると、
男の子は10mほど行ったところでカバンを下ろし、しゃがみ込んでいた。
そのまま信号を渡りきり、家に向かってペダルをこいだが、どうしても気になる。

「なぁ、シンちゃん、あいつ、ほっといて大丈夫かなぁ?」

「腹減ったから早くおうち帰りたいなぁ。」

「あいつ倒れそうだったよなぁ。 荷物運ぶの手伝ってあげようか?」

「シンちゃん、ゴメンなぁ。 ダジー、おせっかいだから、やっぱほっとけないわ。
 戻るな。」

男の子が歩いていたバス通りに戻ると、
男の子、さっきの場所から20mほど行った所でしゃがみ込んでおり、
汗を拭くでもなく、そのままカバンを斜めにかけた状態で道路に手をついていた。

「おぉーい、大丈夫かぁー。 荷物運ぶの手伝ってあげるわ。」
15kgのフライトバッグを持って歩く私でも、まぁまぁ重いと感じるほど、
本の詰まった大きなカバンだった。
小柄で細身の彼には、さぞ重かったことだろう。
でも、よくよく話を聞いてみると、毎日同じぐらい重いカバンを持って学校へ行くらしい。
で、今日は運動をし過ぎて疲れ切ってるのだそうだ。
へぇ〜、陸上部で100mをやってるんだ。

ママチャリの後部座席にカバンを乗せ、100mほど歩いたところで、
もう家は近くだからと言うので、彼にカバンを渡した。
丁寧にお辞儀して、カバンを肩に斜めにかけたが、
今度は背筋がシャキッと一直線に伸びていた!
なんとまぁ、回復の早いこと!?!?!

どう見ても、ぶっ倒れそうなぐらい疲れ果ててた感じだったけどなぁ?
若いからすぐ回復するのかなぁ?
私だったら、運動し過ぎて一度疲れたら、一日休んでも回復しないこと多いもんなぁ。
間もなく37歳になる自分自身のオヤジぶりを再確認したのだった。




2005.07.16

昨日のある便での出来事。

出発前の客室乗務員(CA)さん達とのクルーブリーフィングを終え、
コックピットに入る前に思い出して言った。

「そうそう、おしぼりもらえますか?」
紙のおしぼりを8つ私に手渡しながら、CAさんは言った。
これで足ります?」(CA)
おしぼりは2、3個あれば十分。
8つも必要ない。
「もちろん十分ですよ。 そんなにもらって何に使うんですか?」
隣のひとと体を拭きあってください!」(CA)
「そっかぁ〜。 そーですね。 昨日、汗かいたのに風呂入ってないんですよぉ。( ← ウソです)
 体臭、臭かったですかぁ〜??」
ええ。(笑) しっかり体、、拭きあって下さいね♪」(CA)

そう言って、彼女はコックピットのドアを閉めたのだった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

大分空港で朝食を食べていた。
そのとき、CAさんに声をかけられた。
キャプテン、血液型、何型ですか?」(CA)
「えっ? 何でですか? B型って言いたいんでしょう?」
あっ! やっぱりB型なんですか?
 昨日からキャプテンの血液型の話しで盛り上がってたんですよ。
」(CA)
きっと私がしょーもない体臭ネタでふざけたから、血液型の話になったに違いない。
「残念でした。 O型ですよぉ〜♪」
え゛え゛ぇ゛ぇ゛ーーーーっ!?!? 本当ですか??
 絶対B型だってことになったんですけど。
」(CA)
「どうしてそう思ったんですか?」
だって、私と同じ 『ニオイ』 がする、と感じたんですもの。」(CA)
「にっ、においですか?」
この場合の 『ニオイ』 は、きっと 『臭い』 ではなく、『匂い』 だろう。
若い女の子が、オヤジと同じ 『臭い』 じゃ困るもんな・・・・。


大分では珍しく霧が出ていた。
レストランで朝食を食べているとき、外にとまっている飛行機の尾翼が時々見えなくなっていた。
そこまでの距離は恐らく50mぐらいか。
もちろん、こんな視程では着陸はおろか、離陸もできない。

とはいっても、太陽が昇り、気温が上がれば霧は消える。
問題は、いつなくなるか、だ。
出発時刻 8:00 には間に合わなことは分かっていた。

朝ご飯をいつもより、う〜んとゆっくり食べ、コーヒーのおかわりまでして、
さらにトイレにこもり、ディスパッチへ戻って外を見ると、
おっ! ちょっとましになったかも。
でも、まだ離陸はムリ、ムリ。
あと、30分ぐらいかな・・・・。
よし、そろそろ準備開始するか。

出発時刻の8:00に飛行機へ向かい準備を開始。
時々、霧が薄くなり、また濃くなり、を繰り返していた。
コックピットで準備を終え、クルーブリーフィングを済ませ、コックピットに戻った。
時計を見ると8:12。
今から案内を開始して、エンジンをかけ、滑走路まで行くと、8:30ちょっと過ぎぐらいか。
そろそろ搭乗、始めようか。

カンパニー無線で連絡。
「搭乗開始、何分頃を予定してます?」
8時25分を予定していますが、できれば早めて8時15分でお願いしたいのですが。」(カンパニー)
「こちらは準備できてます。 もう案内開始しましょう。」

お客さんの搭乗中は、まだまだ霧は濃かったが、Push Back を開始し、エンジンを回す頃、
離陸に必要な最低気象条件は確保できる状況だった。
そのとき、滑走路末端で待機していれば離陸できた、ということだ。
もう少し早めに準備していても良かったかもしれない。
かといって、うんと早めにエンジンをかけて、
霧が晴れるまで30分も1時間も滑走路手前で待ち続けるわけにもいかない。
霧が晴れ、離陸できる時刻がピタッと予測できない以上、しょうがないか。

大分を離陸する飛行機は羽田行きのJAL便もあったが、
幸い、彼らより先に Push Back をリクエストし、彼らより先に離陸できた。
大分を一番に離陸できたので、まぁ、良しとするか。



2005.07.19

今日のオリジナルのスケジュールはスタンバイだった。

昨日、妻の実家でご飯をご馳走になっていた。
まさか、今日、スタンバイ稼動することはないだろう、と思っていたが、
万が一、朝早い便を飛ぶことになると、早めに切り上げて家に帰り寝なくてはならない。
念のため、自分から会社に電話を入れた。
すると、「今、電話しようとしてたとこ」 と言われた。
スケチェンでスタンバイ稼動だ。

普段はB737が飛んでいる路線、関空−稚内(1797、1798便)を飛んだ。
126人乗りのB737で乗りきれないほど予約があったから、
166人乗れるA320にタイプチェンジしたのかと思ったら、そうではなかった。
台風の影響で石垣便が2日間切れており、
石垣に2000名ほど身動きの取れないお客さんがいるらしい。
その救済でB737が臨時便で飛んだために、機材が足りなくなり、
関空−稚内 はA320が代わりに飛ぶことになったのだ。
稚内にはコパイ時代、何度もYS−11で行ったし、A320でも行ったが、
機長で行くのは初めて。
ちょっとドキドキだった。

行きは 37,000feet で計画していた。
レポートでは 20,000feet台後半が良い、30,000feet より上は東北方面は揺れる、とのことだった。
しかし、天気図等のデータを見るかぎり、それ程揺れるようには思えなかった。
そこで、お客さんも20名程度で少ないし、燃費効率の良い 37,000feet で飛ぶことにした。

長野を通過し、揺れると言われていたエリアにさしかかったが、
そこでの揺れは大したことなかった。
ほ〜れ、みろ。 そんなに揺れないじゃ〜ん♪
さらに北に進み、新潟に接近すると、今度はマジ揺れた!
ベルトサインをつけてしばらく様子を見たが、あまりの揺れに絶えられず、
とりあえず 33,000feet まで降下。
しかし、揺れの状況は変わらず。
燃費だけ悪化し、稚内到着時の燃料が200kgほど減ってしまった。
さらに高度を下げようかと思ったが、
千歳空港へアプローチしている飛行機は、降下中 27,000feet までは揺れるとレポートしていた。
私達の目的地は稚内。
仮に 27,000feet まで降りて、今、気流が良くなったとしても、
青森から千歳にかけては 27,000feet では揺れる可能性がある。
仕方なく、さらに高度を下げて 25,000feet まで降りると、
稚内到着時の燃料は500kgほど減ってしまう。

33,000feet で我慢すれば秋田から北はスムーズとレポートされていたので、
とりあえずその情報を信じ、耐えた。
すると・・・・、秋田のほんの少し手前から、本当に揺れがピタッと止まった。

ジェット気流が強いのはだいたい冬だ。
また、ジェット気流は南西風から北西風の場合が多い。
今は夏だというのに、今日は珍しく東北上空は北風、350度から120kt もの風が吹いていた。
コンピューターが計算していた予想風は350度から90kt。
予想風より30kt も速かったわけだ。
新潟から秋田にかけての揺れは、
湾曲した北風の影響、風速風向の変化によるものだったのかもしれない。

東北を飛んでいる飛行機は、26,000feet 以下を推奨していた。
稚内からの帰り便、1798便は 35,000feet を計画していたが、私も 26,000feet に変更しようと考えた。
そう考えつつも、青森の上空では 33,000feet の気流は良好。
しかも北風が90kt吹いている。
稚内からの帰りは、この風に乗った方が関空に早く着けるし、燃料も節約できる。
この風を使わない手はない。
さらに北に進み北海道エリアに入ると、33,000feet よりすぐ下には揺れそうな形状の雲があった。
26,000feet で飛んだら、あの中を飛ぶわけね・・・・・。

稚内に向けて降下を開始。
すぐ雲に入った。
32,000feet 近辺で、意外と大きく揺れた。

次の便の飛行計画をチェック。
お客さんは110名程度。
ベルトサインは20分消せば、飲み物サービスはかろうじて終わるかもしれない。
35,000feet で揺れが始まるのは秋田から南。
稚内を離陸して44分後にその地点に達する。
離陸してから 32,000feet まで一気に上昇し、そこでベルトサインを消せば、
秋田まで20分間は消せるだろう。
その間に一通りドリンクサービスを終わらせてもらって、
秋田で揺れたらベルトサインをつけて 26,000feet まで降りればいいか。

稚内から関空まで 26,000feet で飛ぶのと 35,000feet で飛ぶのとでは、
使用燃料が1000kg違う。
念のため、当初計画していた搭載燃料より1000kg大目に積んでもらって、
何らかの理由で高度を下げざるを得ない場合に備えておこう。

よしっ!
帰りは 35,000feet で帰ろう!

そんなことを考えながら稚内へ向けて降下していた。
久しぶりの稚内は残念ながら曇りで、低い雲が地上を覆い、景色を楽しむことはできなかった。
ILS で上空からアプローチ。
強い北風の影響で、1797便の稚内到着は定刻より10分、遅れてしまった。

折り返し、稚内 → 関空 1798便
予定通り FL350 へ向けて上昇していた。
稚内へ向けて降下中、雲の Top は 32,000feet 程度だったが、上昇中、その雲はなくなっており、
23,000feet を超えると青空が広がっていた。
降下中に揺れたのは雲の Top 付近、FL320 のみ。
秋田から先はベルトサインをつける可能性があることを考え、早めにベルトサインを消そうか・・・・。
「さっきの雲、なくなったね。
 風はまだ強くなるんだろうけど、降下中、揺れなかったし、ベルトサイン消そうか。
 ベルトサ・・・・」
「ベルトサイン OFF」 とコパイにオーダーしようと思ったとき、管制官に無線で呼ばれた。
無線交信が終わったらベルトサインを OFF にしよう。
コパイが管制官と交信している途中から、少しずつ揺れが始まった。
んっ??
無線でしゃべり続けるコパイと目が合い、しばらくして、
ガァァアアアーーーーーッ!!、と揺れ出したではないかっ!!
うっわ、危ねぇー。
ATC(無線)が入ってなかったら、この乱気流の中、ベルトサインを OFF にしてたところだ。
前便、1797便の 新潟−秋田 間で経験した揺れとは比べものにならないほどの揺れだった。
28,000feet を通過中に始まり、30,000feet を通過中、カンパニー無線が聞こえてきた。
千歳上昇中、ウィンドシヤーで 28,000〜30,000feet まで Light Plus の揺れがありました。」(他便のパイロット)
「これのことだね。」
そうですね。 ヤバかったですね。 ATCが入って、良かったですね。」(コパイ)

27,000feet では30ktほどしか吹いていなかった風が、 30,000feet では100kt、
そして、私達はその上も揺れが続き、32,000feet で80kt まで減速してから揺れはおさまった。
ここでようやくベルトサインを OFF にした。
しかし、油断は禁物。
秋田までには風が120kt ほどまで増えるはず。
どこかで風が急激に増速すれば揺れる可能性がある。

ベルトサインを消してすぐストップウォッチをスタートさせ、数分後にコトコト揺れが始まった。
計器に表示される風と外気温度とにらめっこしながら、
その揺れがこれから強まるのか、止まるのか、考える。
と、揺れは止まった。

カンパニー無線で聞こえてくる、他の飛行機の無線交信にも耳をかたむける。
関空→稚内 の行きを飛んでいた時間帯は、26,000feet 以下がスムーズで、
26,000feet 以下を飛ぶことをどの飛行機も推奨していた。
私も1798便は 26,000feet にしようと思っていたが、
燃費と追い風を考慮し、たまたま 35,000feet を飛んでいた。
ところが、25,000feet で東北を飛んでいた飛行機からのレポートによると、
FL250 も揺れ始め、23,000feet に降下したが、FL230 でも揺れが続き、 21,000feet に降りてようやくスムーズ。
FL210 がいい、とのレポートが聞こえてきたではないか。
しかも、同じようなことを他の飛行機も言っている。
私達は FL350 で計画はしたが、揺れて FL260 まで降りた場合を想定して1000kg余計に燃料を積んでいた。
でも、もし 21,000feet まで降りてしまったら、それだけでは足りなくなってしまうかもしれない。
ってことは、秋田以降、揺れても FL350 を死守した方が良さそうだ。

ストップウォッチが20分を経過する頃、CA さんがインターフォンで呼んできた。
サービス、終わりました。 後は片付けだけです。」(CA)
「随分、早かったね。 ありがとう。 助かりました。
 あと、5分で例の揺れそうな秋田上空にさしかかります。
 でも、揺れが始まる前にベルトサインをつけず、揺れが始まってからつけようと思います。
 だから、突然揺れる可能性があることを考慮しつつ、早めにあとかた付けして、
 後はいつでも座れるようにしていておいてください。
 いったん揺れが始まっても新潟近辺でおさまるはずで、新潟通過は40分です。
 今からアナウンス入れますね。」

前方にはジェット気流に伴う雲が見える。
あそこから先がヤバイんだろうな、きっと。
あと40マイルぐらいか。
ちょうど秋田の上あたりだな。

秋田上空を通過した。
コトコト程度の揺れはあったが、さほどでもない。
雲に入った。 
まだ揺れない。
ふ〜ん・・・・・・・、揺れないんだ・・・・・・。
カンパニー無線では、20,000feet 台の揺れのレポートがひっきりなしに入っている。

そうこうしているうちに、庄内まで来てしまった。
まだまだ、揺れないか・・・・・。
ひょっとして、このまま揺れずに行けちゃうかもよ。
「千歳−庄内までは、FL350 がほぼスムーズって、カンパニー北海道に言っておいてくれる?
 そのあと、カンパニーを関東に代えて、新潟までもし揺れなかったら、カンパニー関東に教えてあげようか。」
コパイにカンパニー無線での交信をお願いした。

いつ揺れが始まるんだろう?
ドキドキしながら待ち続けたが、いつの間にか佐渡の上、新潟 abeam(真横)まで来てしまった。
とうとう揺れずにここまで来ちゃったか。
全然、揺れませんでしたね。 もらった、って感じですね。」(コパイ)
「ラッキーだったねぇ。 じゃあ、カンパニー関東に 『FL350 は気流良好』 って、言っておいてくれる?」

その後、関空まで全く揺れず、快適なフライトが続いたのだった。



2005.07.27

昨日、昆陽池に行った。

この時期、セミの抜け殻を山ほど見かける。
シンちゃん、不思議そうに見ていった。
しんでる。」(シンちゃん)
「違うんだよ。 これはセミさんの幼虫の抜け殻なんだよ。
 セミさん分かるか? ミンミン鳴いてるだろ?
 ミンミン鳴いてるセミさんの幼虫が、土から出てきて、木に登って、
 背中の皮を破って出てきたのが、これさぁ。
 だから死んだんじゃないんだよ。 飛んでったんだよ。」
しんでる。」(シンちゃん)
「違う、違う。 飛んでったんだよ。」
とんだ。」(シンちゃん)

シンちゃん、全然、分かってない気がする。
2歳半じゃあ、無理もないか・・・・・。
地面のいたる所に直径2cm程の穴が開いているのに気がついた。
抜け殻を一つ手にして言った。
「見て。 このセミさんの赤ちゃんが、こーんな感じで穴から出てきて、
 木に登ってったんだな。 で、背中を破って出てきたんだよ。 分かるか?」
「ミミ、ないてんねん。」(シンちゃん)(ミミ=ミンミン=セミ)
と、上を向いて空高く指差した。

う〜ん、ぜーんぜーん分かってない感じ。

「ほら、見てぇ〜。 ここにも、ここにも、ここにも、あそこにも、あっちにも。
 穴だらけだねぇ〜。 スゴイねぇ〜♪」

え゛っ???

穴にはまって動けなくなっているセミの幼虫を発見。
沢山の小さなアリにたかられているではないかっ!!
時刻は17:00。
セミの幼虫は夜、土から出てくるはずだから、夜、朝、昼、夕方まで、この炎天下、
穴にはまってもがきながらアリにたかられていたんだ。
なんて、可哀想に・・・・。
セミの幼虫を穴から出してやり、アリを吹き飛ばした。

「見てぇ。 シンちゃん。 これが、中身の入ったセミの赤ちゃん。
 こうやって穴から出てきて木に登って、ぶら下がって、
 背中が破けて中からセミさんが出てくるんだよ。」
シンちゃん、キョトーンとしている。
「よしっ! セミの赤ちゃん、木に登らせてよう。」
そう言って、私はセミの幼虫を近くの木にくっつけようとした。
しかし、弱りきった幼虫、落っこちた。
そっか、木の皮がツルツルだと登りにくいんだな。
皮がザラザラしてる木は、と・・・・・・。
あっ、あれがいい。
再び、幼虫を木にくっつけたが、また落ちた。
ダメかなあ・・・・・。
頑張れ。
お゛っ!! ついた!!
お゛っ!! 歩いて登ってる。

「見て、見て。 セミの赤ちゃん、木を登ってるよ。 分かるだろ?
 こうやって、穴から出てきたセミの赤ちゃんは木を登って、木にぶら下がって、セミになるの。」
木を登って行く幼虫を見て、シンちゃん、目を輝かせ、手をたたいて喜んでいる。
うん、うん。 ダジーは嬉しいぞぉ〜。
オマエの嬉しそうな顔が見れて。

地面から20cmほどのところからスタートしたセミの幼虫、私の目の高さまで登った。
だいぶ時間がかかった。
さて、どうしようか・・・・・。
シンちゃんは、ずっと眺めてる。
「そろそろ帰るか?」
いや。」(シンちゃん)
「じゃあ、白鳥さん、見に行こう。」
い・や・」(シンちゃん)
「うーん・・・・、じゃーあー、ハトさん、だっこする?」
いや。 みみ、みる。」(シンちゃん)
「そっか。」

参ったな・・・・。
いつまで見続けるんだろう?
こいつ、昨日の夜に脱皮するはずだったのに、丸一日アリにたかられ、もがき、
かなり弱ってて、このまま成虫になれる可能性は低いかもしれない。
木から落ちて死んじゃうかもしれない。
それは可哀想だよな。
そうだっ!
家に連れて帰って、虫かごの中に入れて暗くしておけば、
今晩、寝るまでに脱皮するところが見れるかもしれない。
成虫になったら、明日離してあげればいいじゃん。
セミが脱皮するところなんて、滅多に見れるもんじゃないぞ。
そうしよう!!
私はセミの幼虫に手を伸ばし、捕まえ、虫かごに入れた。
シンちゃん、キョトーンとしている。

「セミの赤ちゃん、持って帰って、セミさんが中から出てくるのを、おうちで見ようよ。 な?」
たかいとこ、おいといて。」(シンちゃん)
「えっ? 木に戻すの?
 だって、このまま木に登り続けても死んじゃうかもしれないよ。
 おうちに持って帰って、中から出るの手伝ってあげようよ。」
い・や・。 みみ、たかいとこ、おいといて。」(シンちゃん)
そっか、連れて帰ったらダメか。
そうだよな。
ハトだって、捕まえてもバイバイするし、バッタもチョウチョも捕まえてもバイバイするもんな。
自然に生きてるものは連れて帰ったらダメなんだよな。
オマエ、優しいな。

虫かごからセミの幼虫を出すと、シンちゃんの目が輝いた。
捕まえた場所に戻し、しばらくセミの幼虫が木を登る様子をシンちゃんと眺め、そして言った。
「じゃあ、セミの赤ちゃんにバイバイするか?」
バイバイ」(シンちゃん)
今度はイヤがらずに、私と一緒にその場を立ち去った。

今日、また昆陽池に行った。
もちろん、昨日、セミの幼虫を離した場所に行った。
中身の入った幼虫が地面に落ちてないか・・・・・・。
辺りを見まわしたが、どうやらいなさそうだ。
木を見上げた。
昨日はセミの幼虫の抜け殻がなかった枝に、抜け殻を発見。
そこ以外は、どこにも抜け殻はない。
もしかして、昨日のあいつ、あれか?
分からないけど、きっとあいつだろう。
最後の力を振り絞って、きっと成虫になれたんだろう。
良かった、良かった。

シンちゃんも、無言で木を見上げていた。
昨日の出来事、覚えてるかな?